研究概要 |
1.IUGRの診断および管理 当院で分娩予定の妊婦550例を対象に超音波断層法による胎児発育の推定を行い、発育遅延胎児(IUGR)を抽出した。また、発育不全の原因を知る目的で、IUGRに対して心拍数モニター、超音波断層法による胎児形態検索、超音波ドプラ法による子宮動脈血流および臍帯血流の評価を行った。その結果、IUGRが重度(-2SD未満)であり、かつその原因が明らかでなかった17例が抽出された。 2.検体の収集および保管 長崎大学倫理委員会の承認を得て、上記17例のIUGRについて、両親の許諾のもとに、胎盤および両親の血液を採取してこれらを保存した。また、対照として正常発育胎児の検体の一部を同様に保存した。 3.CPMの検索 上記17例について、胎児および胎盤の染色体検査を行った.胎児および胎盤のいずれにおいても染色体異常を認めたものは2例、胎盤のみに限局して染色体異常を認めたもの(confined placental mosaicism : CPM)は2例存在していた。染色体異常を認めない13例のIUGRのうち2例については、体幹の左右差や特徴的な顔貌からシルバー・ラッセル症候群と診断された。興味深いことに、7番染色体上の刷り込み遺伝子に異常を来すような微細な染色体異常あるいは遺伝子異常が、本症候群に関与していることが示唆されている。 4.UPDの検索 CPM症例の核型は、47,XX,+22/46,XXおよび47,XX,+7/46,XXであった。これらの発育不全(-2SD未満)は片親性ダイソミー(uniparental disomy : UPD)に起因する可能性があり、22番染色体と7番染色体について染色体全域をカバーするマイクロサテライトマーカーを用いてUPDの有無を検討した。しかし、いずれの症例も胎児におけるUPDの可能性は否定された。よって、UPDが関与する発育不全は非常に稀と考えられ、むしろモザイクによる胎盤の機能不全が重度の発育不全を引き起こしていると思われた。 IUGRのなかでも特に原因不明の重度発育遅延(-2SD未満)には、高頻度に染色体異常あるいは遺伝子異常に起因する一群が存在した。よって、重度発育遅延を対象とした染色体および遺伝子異常のスクリーニングは、本疾患の分子機序を解明する手がかりとなりえる。
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