研究概要 |
P27^<Kip1>遺伝子(以下p27)は,細胞核内における主要な増殖抑制因子のひとつである.その機能としては,サイクリン依存性キナーゼ阻害タンパクとして特にサイクリンEを阻害することにより細胞周期におけるG1期での増殖抑制に寄与するものである.われわれは本研究を通じてp27の開始コドンから上流79塩基対に1塩基の多型が存在することを明らかにした.この上流の領域はp27がmRNAに転写された際に特有なループ構造を呈し,このループの先端に数種類のRNA結合タンパクが結合することにより,p27タンパクが発現することが知られている. 本研究を通じ,われわれはこの1塩基多型つまりこの部位での塩基の違いによるp27タンパク発現量の差について検討し,さらに分子疫学的観点より1塩基多型とp27タンパク発現量の関係,自然流産での分布について得られた知見を報告する.自然流産胎児とp27遺伝子多型につきRFLP解析およびSSCPによりgenotypingを行った.さらに免疫組織化学染色にて流産絨毛におけるp27たん白発現を解析した.95症例の自然流産絨毛,コントロールとして79例の母親脱落膜組織を用い,DNA抽出後各例PCR,RFLP解析,SSCP解析によりgenotypeを決定した.その結果,流産胎児においては,C/C:26例(27.4%),T/C:19例(20.0%),T/T:50例(52.6%)であった.一方母親組織では,C/C:25例(31.6%),T/C:15例(18.9%),T/T:39例(49.3%)であり,両者のgenotype分布には統計学的有意差を認めなかった.さらに,免疫組織化学染色を用いて,胎児genotype別の,絨毛上皮におけるp27たん白発現量を解析した.その結果,C/Cの胎児では,絨毛上皮のたん白染色性は,1+:11例,2+:6例,3+:1例であり,T/Cの胎児では,1+:8例,2+:15例,3+:2例,T/Tの胎児では,1+:4例,2+:8例,3+:6例であった.C/CとT/Tでは,たん白発現分布に統計学的有意差を認めた.また免疫染色のコントロール群として,絨毛上皮にubiquitousに発現しているサイトケラチン染色をおこなったがC/C,C/T,およびT/T間で発現量の差は認めなかった.以上より,この1塩基多型は自然流産のリスクには,直接的に関与していないが,p27遺伝子たん白発現量の調節に関与していると考えた.
|