研究概要 |
近年、種々の癌細胞の浸潤、転移と血管新生の関係が着目されている。 肝細胞増殖因子(HGF: hepatocyte growth factor)は主として腫瘍を構成する間質細胞から分泌され、腫瘍細胞の増殖、浸潤、血管新生を促進することが明らかとなっている。 他方,HGF fragmentであるHGF/NK4はHGF antagonistとして作用する。今回、私達は、この作用機構に着目し,卵巣癌遺伝子治療開発を目指し,HGF/NK4遺伝子発現adenoviral vector(Ad-NK4)を作成し,腫瘍増殖抑制効果を検討することを目的とした。しかし、効果的なHGF/NK4遺伝子発現adenoviral vector(Ad-NK4)の作成が困難であった。 そこで、卵巣癌とHGFの関係の有無、およびそれらが実際の臨床にどのように反映されるかを研究するために血中HGF濃度に注目し、検討を行った。 材料および方法:インフォームドコンセントが得られた卵巣癌症例13例、良性卵巣腫瘍8例、健常人10例の血中HGF濃度をELISA法にて測定した。 結果:卵巣癌症例の血中HGF濃度は0.59±0.38、良性卵巣腫瘍の血中HGF濃度は039±0.17、健常人の血中HGF濃度は032±0.06であった。これらの結果を解析すると卵巣癌症例の血中HGF濃度は健常人の血中HGF濃度に比し有意に(P=0.002)高値であることが判明した。他方、良性卵巣腫瘍の血中HGF濃度は健常人の血中HGF濃度に比し有意差は認められなかった(p=0.25)。 結論:これらの結果から、血中HGF濃度は卵巣癌をスクリーニングする上で有用な腫瘍マーカーとなりうると考えられた。
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