研究概要 |
連鎖解析の対象となる家族性メニェール病の家系の収集につとめるも,連鎖解析可能な罹患者を含む家族性メニエール病症例の同定に至らなかったそのため,メニエール病と同じく低音障害型の感音難聴を主徴とする症例の遺伝子検索を行った。対象とした症例は5症例で,いずれも両側性の低音障害型の感音難聴が主な臨床症状である。メニエール病と異なり,どの症例にもめまいの既往は見られなかった。遺伝形式は,2症例は弧発性,3症例は常染色体優性遺伝が推測された。難聴の進行は2例で同定された。非症候群性遺伝性感音難聴症例で,低音障害型の感音難聴を呈する症例は,DFNA1とDFNA6/14,38で特異的にみられる。近年,常染色体劣性遺伝でインスリン要の糖尿病,進行性視神経萎縮,難聴を呈し,脳の広範な萎縮で死亡するWoifran症候群の原因遺伝子であるWFS1遺伝子の変異が,上記の非症候群性遺伝性感音難聴に同定されている。今回対象とした症例については,WFS1遺伝子の変異の検索を行い,多型を含めて9個の点変異が認められた。また,5症例中1例はGJB2遺伝子変異も同定され,WFS1とGJB2遺伝子の共発現が想定された。平衡障害は見られず,メニエール病の病態とは必ずしも一致しないが,蝸牛低音領域に限局した病変を生じる分子学的機構の解明に,これらの遺伝子機能の解析が有用となる。特に,WFS1とGJB2遺伝子変異の共同作用による低音障害型感音難聴は,従来報告されておらず,継続した解析が重要となる。
|