研究概要 |
血管内皮細胞と網膜色素上皮細胞に対する光感受性物質ATX-S10(以下ATX)とVerteporfin(以下BPD)を用いた光線力学療法(PDT)の殺細胞効果をMTS Assayで評価した。PDTは、薬剤に5分間曝露後培養液に薬剤を残した状態でレーザー照射を行う短時間曝露PDT群と、60分以上曝露後培養液から薬剤を除いた状態で照射を行う長時間曝露PDT群に分けた。ATX励起には波長670nm、BPDには波長689nmの半導体レーザーをそれぞれ使用した。 PDT効果は薬剤濃度とレーザー照射量に依存したが、死細胞率90%となる照射量と薬剤濃度は、ヒト皮膚微小血管内皮細胞(CryoHMVEC-Ad)では短時間曝露群50J/cm^2, ATX6.3μg/ml, BPD0.04μg/ml、長時間曝露群50J/cm^2, ATX50.0μg/ml, BPD0.04μg/mlであった。ただし培養液中の血漿濃度をあげれば必要量は上昇した。サル網膜・脈絡膜血管内皮細胞(CRL-1780)では、短時間曝露群100J/cm^2, ATX100μg/ml, BPD0.08μg/mlであった。ヒト網膜色素上皮細胞(ARPE-19)と血管内皮細胞の死細胞率を比較すると、ATX短時間曝露群で血管内皮細胞の死細胞率が色素上皮よりも有意に高かったが、他の治療条件やBPDでは両者の差はなかった。また、細胞内取り込み量と細胞内局在を蛍光法で検討したところ、ATXは主としてライソゾームにBPDは細胞質全体に分布した。 以上より、PDT効果はBPDの方がATXより高かった。この理由として細胞内取り込み速度と分布の違い等が考えられた。ATXの短時間曝露PDTで色素上皮細胞より血管内皮細胞が選択的に傷害されることが明らかになったが、他の条件では色素上皮細胞にも薬剤が取り込まれるため、色素上皮細胞障害なしに血管内皮細胞を障害することは困難と思われた。 細胞死形態をTUNEL染色と走査レーザーサイトメーターで観察したところ、ATX短時間曝露群では主としてネクローシスが、長時間曝露群ではアポトーシスがみられた。このことから薬剤が細胞膜周囲にある場合はネクローシスが、ライソゾームに集積すればアポトーシスが起こりやすいと考えられた。 ヒト皮膚悪性黒色腫細胞に対してもATXは殺細胞効果を有した。細胞障害作用が軽度の弱いPDT条件下ではアポトーシスが優位に発生し、90%以上の死細胞率の得られる条件下ではネクローシスが発生した。
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