研究概要 |
1.正常唾液腺では、E-cadherin,α,β-catenin,CD44v6,v9のいずれもが実質細胞の細胞膜に明瞭に発現されていた。一方、腫瘍組織では、腫瘍性筋上皮細胞の関与のないWarthin腫瘍、粘表皮癌では強い発現が見られたのに対して、PAでは間葉様組織への化生を伴う前に、すでに腫瘍性筋上皮細胞間の接着分子発現が減弱していることが明らかとなった。ACCでは、E-cadherin,β-cateninとも細胞膜上での発現が不規則で弱く、一方、β-cateninの核内蓄積が認められた。このことから、ACCでは、腫瘍発生にβ-cateninの異常発現が関わることが示唆された。ACCでは、CD44v6,v9の発現低下もみられたが、転移能との間に関連性は認められなかった。 2.E-cadherinの発現低下とβ-cateninの核内蓄積を示すACCでは、EGF-EGFR系-Wintシグナルを介した遺伝子発現亢進が生じている可能性が示唆された。 3.ACCの細胞外基質内にはMMP-2,-9が含まれており、基底膜の破壊、浸潤ならびに転移に関わると考えられた。 4.PAと腺房細胞癌より分離した腫瘍細胞にhTERTを導入し、継続して増殖可能な細胞株の樹立に成功した。PA細胞は、分泌上皮性マーカーと筋上皮性マーカーをともに発現し、PLAG1の発現も確認できた。一方、腺房細胞癌よりの細胞株は、分泌上皮性マーカーのみを発現していた。両細胞株を用い、細胞形質を比較することにより、唾液腺腫瘍での細胞分化、腫瘍性筋上皮による特異な形態形成をin vitroで調べることが可能となり、現在、増殖因子刺激に対する反応性と細胞接着性の変化ならびに基質産生能を検討中である。
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