研究概要 |
筆者はこの課題の下,まずgcrR遺伝子について,二成分制御系のレスポンスレギュレータという観点からこの遺伝子によるgbpC遺伝子の発現調節機構の解明を試みた.レスポンスレギュレータはそのカウンターパートであるセンサータンパクからリン酸化によるシグナルを受け取る.その受容サイトと推定されたアスパラギン酸をアラニンに変えた変異を導入し,シグナルを受け取れない状態にして調べたところ,GcrRタンパクは二成分制御系の因子としてよりは,単純にリプレッサー様タンパクとして働いていると解釈した.別の研究者らも"orphan response regulator"として,同様な見解をとっている.GbpCタンパクは細胞壁アンカータンパクであるので,実際に細胞壁に発現していることをウェスタンプロット分析で確認し,これを介してS.mutansの菌体が固定化グルカンへ結合出来ることを示した.また,細胞壁へのアンカーリングには酵素ソルターゼが関与しており,この欠損変異株ではグルカン依存性凝集が消失することも示した.S.mutans GS-5株ではgbpC遺伝子にnonsense変異が認められたことが契機となり,gbpC遺伝子には一塩基多型が多く存在することを明らかにし,その保存された領域からPCRプライマーを設計し,Streptococcus macacaeからgbpC遺伝子ホモログを同定することができた.これは,他のミュータンスレンサ球菌にも同ホモログの存在を伺わせる結果に至った,更にS. mutansのグルカン依存性凝集の観察から,見かけ上よく似た現象であるが,これとは別の低温凝集という現象を見出し,ミニトランスポソンを利用したin vitro変異導入法の適用により,コラーゲン結合アドヘシンの同定へと至った.これは口腔常在菌からの同タンパクの存在に関する最初の報告となった.
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