研究概要 |
顎二腹筋は咀嚼や嚥下のみならず呼吸活動にも関わる筋である。そこで我々は、乳幼児期の動物が無酸素状態に陥った際に横隔膜活動とともに顎二腹筋活動が検出されるか調べた。生後5,10,16,24日齢のラットをペントバルビタールあるいはケタミン/キシラジンで麻酔し、顎二腹筋と横隔膜両筋電図の測定を100%窒素暴露による無酸素環境下で行った。 空気環境下、顎二腹筋筋電図(dEMG)は横隔膜筋電図(diaEMG)ほど明確ではないが認められ、両者はほぼ同期して出現した。無酸素下では先ずdiaEMG活動の抑制が認められ(Phase1と呼ぶ)、その間にdEMG活動が検出された。このdEMG活動のパターンは日齢で異なり、5、10日齢では散発的な活動(sporadic activity)を、16、24日齢では持続的な活動(tonic activity)を示した。さらに無酸素状態が持続すると、diaEMGとdEMG活動が同期して出現し(この時期をPhase 2と呼ぶ)、最終的に全活動は停止した(terminal apnea)。尚、これらの特徴的な筋電図活動は、両側頚部迷走神経切断ラット(全日齢)にも、またN-methyl-D-aspartate(NMDA) receptor antagonist, MK-801投与ラット(16、24日齢)にも認められた(共にペントバルビタール麻酔下)。 以上から、無酸素暴露の初期、一時的にdiaEMG活動が抑制される時期にもdEMG活動が検出され、その活動は日齢や麻酔薬の違い、迷走神経切断やMK801投与の有無に関わらず起こる事が示唆された。今回の結果は、乳幼児期の動物が極度の低酸素状態に陥った時に顎二腹筋活動が検出されることを示した最初の報告である。同活動が呼吸抑制時にも認められたことから、今後、呼吸だけでなく嚥下反射と関連づけた検討の必要性が示唆された。
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