研究概要 |
目的:創傷治癒過程に重要な役割を果たすことが知られているPDGFには、アイソフォームとしてAA, AB, BBの3種類のホモ、ヘテロダイマーが存在する。最近これらのダイマーが間葉系細胞の増殖や、コラーゲン合成を促進することが細胞生物学的に明らかにされている。とくに骨芽細胞の分化や骨形成への作用が詳しく研究されている。しかしながら、同じ硬組織形成細胞である象牙芽細胞への影響はほとんど明らかにされていないのが現状である。そこで本研究では歯随細胞の培養系を応用して、PDGFの各ダイマーが象牙芽細胞への分化に対してどのように作用するかを調べ、覆随剤としての臨床応用するための基礎的な知見を得ることを目的に以下の実験を行った。材料と方法:ラットの下顎切歯の歯随から分離した細胞を培養し、PDGF AA, AB, BBをそれぞれ添加し、20日間培養し,象牙質基質合成量を分化マーカーとして、石灰化結節数、dentinsialoprotein(DSP)のmRNAの発現を,in situ hybridization法とNorthern blot法にて調べた。結果と考察:PDGF AAを作用させた歯随細胞は象牙芽細胞への分化が初期から抑制され、石灰化結節数、DSPmRNAの発言も強く抑制された。一方、PDGF AB, BBを作用させた細胞はともに石灰化結節の形成は抑制されたが、興味あることにDSP mRNAの発現はコントロールやPDGF AAを作用させた細胞に比較して増加していることが明らかになった。これらの結果はPDGFはA鎖とB鎖では象牙芽細胞の分化におよぼす影響は異なり、二相性の作用を有することが示唆された。本研究は今後PDGFを歯随保護薬剤に応用する上で極めて有用な基礎知見であると考えられる。
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