研究概要 |
本研究ではまず次に示す咬合感覚診査システムを開発した. 歯根膜感覚:厚さの異なる(8,12,16,20,24,28,32,3βμm)ストリップス(Bausch製Arti-Fol, ARTus製Registration strips)を用いた歯根膜厚さ分別能の測定(フォイルテスト) 筋感覚:1センチメートル前後の厚さの異なる(9,9,5,9.75,10,10.25,10.5,10.75,11mm)ブロック・プラスチック板を用いた筋紡錘の厚さ分別能の測定(スティックテスト) 顎関節感覚:2センチメートルの開口位を術者の誘導によりとらせ,一度閉口後再度自発的に同じ開口位をとらせその再現性を測定(TMJテスト) 粘膜感覚:小ピース5個(円形、楕円形,三角形、四角形、長方形)を用いたステレオグノスティックテスト 本システムは簡便で安価であり咬合感覚診査の臨床応用が可能となった.次に,咬合感覚異常をもたない正常被験者20名を対象にこれら4つの感覚診査を行いそれらの正常値のプロファイルを導出した.引き続き咬合感覚異常者を対象に感覚診査を行った.4つのテストの結果群間差が認められたのはフォイルテストのみであった.フォイルテストの結果、正常被験者の識別値は14μm(中央値)となり,従来の歯根膜の識別閾の報告と同程度の値を示した.興味深いことに咬合感覚異常者の識別値は正常者のそれより低い傾向が認められ,中央値が6μmとなった.特に1名の患者を除き他の患者はすべて10μm未満の識別値を示した.本研究結果はこれら患者群の咬合感覚の異常が何らかの形で鋭敏化された歯根膜感覚受容器が微細な咬合の変化を検知できるようになったことに起因している可能性を示唆しでいる.歯科臨床において咬合紙を用いた咬合診査・調整を10μm以下の精度で行うことは事実上不可能である.つまり,咬合診査で異常が認められなくても、咬合感覚異常を訴える患者に遭遇した場合,臨床家は現在の医療技術で検出できないほど微小な咬合異常が存在する可能性があることを認識する必要性があること示唆している.同時に,そのような患者の訴えを十分なスクリーニングもせず,精神心理学的要素と安易に結び付けて理解しようとすることには注意を要することを示唆している.今回選択された被験者は本学附属病院へ来院中のConvenient sampleであり,被験者数も少なく,群間差が統計的に有意ではなかったこと等から,本研究結果を一般化するには更に研究を継続する必要があるが,前述のように7例中6例において非常に高い識別能が認められたことは特筆すべきである.
|