研究概要 |
加齢に伴う嚥下反射の低下は,口腔相から咽頭相への送り込みの遅延によるところが大きいことが報告されている.口腔相から咽頭相への食塊の移行時に上下の歯が接触するといわれていることから,高齢者においては咬合の喪失が嚥下機能に何らかの影響を及ぼしている可能性が考えられる.しかしながら,この嚥下機能低下が加齢そのものによるものなのか(一次老化),咬合の喪失が嚥下機能に影響を及ぼした結果(二次老化)によるものかどうかは明らかにされてない。 本研究は,この点を明らかにするために,80歳以上で20歯以上残存している,いわゆる8020達成者と若年者の摂食・嚥下機能をX線学的に比較し,加齢による機能低下によるところ明確化することとした。広島市が11月8日のいい歯の日に主催している8020達成者の表彰式において研究協力者を募集、インフォームドコンセントをとった後、摂食嚥下機能に関するアンケート調査,発音検査,嚥下造影検査を実施し、若年対照群と比較した。 検査を行った8020達成者は、男性12名、女性7名の計19名であった。この中に、誤嚥があった者はいなかった。男女間の時間分析結果に差は認められなかったため、若年対照群(男性9名、女性5名、平均年齢26.8歳)との比較は、男女をまとめて行った。 若年群に比較して、高齢者群では、口腔通過時間、咽頭通過時間ならびに嚥下反射誘発時間のすべての項目において、有意に延長が見られた。このことは、これまでの報告と一致しており、嚥下時間の延長は、加齢に伴う神経・筋機構の予備能力の低下と柔軟性により引き起こされている一次老化によるものであることが明確となった。
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