研究概要 |
健康や生命のリスクファクターである誤嚥を予防するためには,嚥下機能評価法の確立が重要であるとともに,より簡便に嚥下機能を評価できる測定法が望まれている.そこで我々は,嚥下機能の評価法として舌圧,喉頭運動,嚥下音に着目し,簡易測定法と口蓋床測定法を開発し,その有効性を検討した.また,簡易法を用いて,加齢や自立状態が嚥下機能に及ぼす影響を調査するために,高齢者や要介護高齢者を対象に嚥下動態を観察した.さらに,摂食・嚥下リハビリテーション法の有効性を検討するために,健常若年者を対象に,口蓋形態,体幹角度,食品の味の調節が嚥下機能に及ぼす影響を観察した.その結果,以下の結論を得た. 1.簡便測定法と口蓋床測定法では同様の測定結果が得られ,その有効性が示唆された. 2.最大舌圧は加齢により減少した.特に要介護高齢者では有意に小さな値を示した.舌や喉頭運動の発現から嚥下音の発生までの時間は,要介護高齢者で長かった.舌や喉頭運動の波形発現から最大値発現までの時間および波形消失までの時間は,健常高齢者と要介護高齢者で長かった.本測定法により加齢と自立状態による嚥下機能の変化を評価できた. 3.最大舌圧は口蓋板の厚みにより増加したことから,嚥下時の舌による食塊の送り込み能力の向上が確認され,嚥下補助床の有効性が示唆された.最大喉頭運動量は体幹の後傾により有意に減少した.舌や喉頭運動の波形発現から嚥下音の発生までの時間は,仰臥位で座位より短かった.波形の発現から最大値発現までの時間は,喉頭運動で仰臥位が座位より有意に短かった.以上ことから30度仰臥位での食事指導の有効性が示唆された.食品の味は本測定結果に影響を与えなかった. 今回新たに開発した測定法は,嚥下機能を簡便にかつ効果的に評価できた.嚥下機能は加齢や自立状態,口蓋形態の変化,体幹角度等さまざまな条件の変化によって影響を受けた.
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