研究概要 |
我々は人工試料カプセルを用いた有歯顎者用の咀嚼能力のエネルギー表示法(Nakashima at al :J Oral Rehabil 16:373-380,1989)に注目し,咀嚼力の小さい義歯装着者や高齢者にも適応可能な高齢者用人工試料テキスチャーとして「高齢者カプセル」の開発を行い,現在その臨床有効性について研究を続けている. 同試料による咀嚼能力の測定方法は,ゴムカプセル内に封入された色素内包顆粒が外力で破壊されて漏出し,この濃淡を吸光度計で計測し,その咀嚼粉砕能力をエネルギー変換し数値で表示する仕組みである.試料回収率も100%と正確という利点に加え,短時間で客観的評価ができ被検者の負担が少ないのが特徴である. 本研究の目的は開発したカプセルを用いた咀嚼能力評価法の妥当性を他の評価法と検討した上で,要介護者を含めた様々な状態の高齢者の咀嚼能力を評価し,高齢者の咀嚼機能を評価する臨床指標を構築することである. ・基礎実験で人工試料カプセルのエネルギー変換式は以下のように求めた. 有歯顎用カプセル Y=0.1206X,高齢者用カプセル Y=0.0655X (X:吸光度値 Y:エネルギー変換値(joule)) ・使用に慣れた総義歯使用の自立高齢者無歯顎集団16人を対象に,カプセル咀嚼により求められる咀嚼能力と,篩分法および平井らのアンケート法との各方法における咀嚼能力評価の関連性を検討し,篩分法,アンケート法ともに有意な相関があることを明らかにした. ・高齢者の咀嚼能力を客観的方法で評価する指標を構築するための予備調査として,様々な状態の高齢者の咀嚼能力を求めた.コントロールとして25名の成人(平均年齢30.0歳),19名の有歯顎の高齢者(74.6歳),12名の総義歯使用高齢者(74.0歳),11名の要介護高齢者(79.1歳)の各グループの咀嚼能力を比較した.それぞれの咀嚼能力のエネルギー値は,コントロールの成人グループの0.1457jouleに比較し,0.0817(J),0.0287(J),0.0087(J)と有意に小さな値を示した.今後さらに対象者を増やして臨床指標確立を目指したい.
|