研究概要 |
金属生体材料はその優れた機械的性質から負荷のかかる部位で使用されるが,その結果として,金属イオンの溶出が加速したり,摩耗粉が生成したりする.そのような使用状況を考えると,金属生体材料の生物学的評価において溶出のみでなく,摩耗粉の評価を行うことが必要である. 本研究では,非貴金属合金を構成すると考えられる14種類の金属元素(Cu, Al, Ti, Zr, V, Nb, Ta, Cr, Mo, W, Mn, Fe, Co, Ni)と1種類の非金属元素(Si)の粉末を用いて,骨芽細胞様細胞に対する影響を調べた.その結果,細胞に対する影響から15種類の粉末は,溶出を主体とするもの,粉末自体の作用によるもの,両方の要素を備えたものの3つのカテゴリーに分類できた.その中で粉末自体の作用によるものは,金属の特性や粉末の大きさなどによって細胞は影響を受けた.また,骨芽細胞様細胞のALP活性にも変化が認められ,金属粉末が骨芽細胞様細胞の分化にも影響を及ぼすことが考えられた.これらの結果は,動的負荷のかかる部位で使用される金属生体材料が,溶出のみでなく,摩耗粉の生成によって周囲組織や骨形成に影響を及ぼす可能性があることを示している.とくに,高濃度で細胞生存率が低下したことは,長期使用による摩耗粉の局所的な蓄積の影響が当該部位へ集中することによるとも考えられた. 今回の報告は粉末状の実験材料による結果であり,金属生体材料に直接に結びつくものではない.しかし,今後,新しい金属生体材料を創製していく際に材料設計に対する生物学的観点からの示唆を与えるものと考える.
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