研究概要 |
歯科用軟性裏装材には種々のフタル酸エステル類が可塑剤として配合されているが,内分泌攪乱作用が懸念されている.本研究の目的はさまざまな浸漬環境中でのフタル酸エステルの溶出性を明らかにすることである.市販の軟性裏装材3種を14日間浸漬媒体(蒸留水,5%エタノール,10%エタノール)中に浸漬すると溶出量は経時的に増加したが,その傾向は蒸留水中よりもエタノール溶液中でより顕著であった.溶出挙動の比較を直接可能とするために3種のフタル酸エステル(フタル酸時ブチル,ブチルフタリルグリコール酸ブチル,フタル酸ベンジルブチル)を用いて試作調製したモデル化裏層材の場合も同様の溶出傾向を示した.フタル酸エステルの溶出量はその化学構造に大きく影響を受け,フタル酸の側鎖に存在するエステル結合の数が多いほど溶出量は増加する傾向を示した.また,フタル酸の側鎖にベンジル基のようなかさが大きく疎水性の強い官能基を持つようなフタル酸エステルでは,他のフタル酸エステルに比べて溶出量が少なく,このようなフタル酸エステルの分子構造と浸漬媒体への溶解度が溶出性に寄与していることが明らかとなった.一方,これらのモデル化軟性裏装材をヒトの唾液中の浸漬すると,蒸留水よりも少ない溶出量を示した.そこで,ヒト唾液にフタル酸エステルを添加して経時的な濃度変化を測定すると,急激な濃度低下が観察された.これは唾液中の加水分解酵素によってPAEが急速に分解されていることを示唆している.したがってより口腔内環境に近い溶出試験結果を評価する上でヒト唾液を用いた詳細な検討が必要であり,分解生成物をも含めたエストロゲン様活性の評価が急務であるとの示唆を得た.
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