研究概要 |
頭頚部扁平上皮癌患者の予後を左右する因子として、多発癌を制御することが重要である。口腔の特徴として、飲酒、喫煙、さらに通常の食事によって口腔粘膜は常に発癌物質に曝されている。従って、多発癌を有する患者では、このような環境因子により口腔粘膜全体が癌化しやすい状態になっていると考えられる。今回、同時性、異時性を含めた口腔多重病変の分子生物学的解析として、このような患者の癌組織、前癌病変の組織を用いて染色体上の3p14、9p21、17p13領域における変異(microsatellite instability, loss of heterozygosity)を検討し、field cancerization theoryを証明することを試みた。その結果、1)大部分の口腔多発前癌病変はそれぞれ独立に発生しており、field cancerization theoryを裏付ける結果が得られた。2)口腔多発癌ではfield cancerization theoryを裏付ける発癌に加え、common clonal originのものも存在する可能性が示唆された。3)3p14、9p21、17p13領域でのmicrosatelliteの変化は病変の進展に伴い蓄積される傾向を示した(Oncogene,20:2235-2242,2001)。一方、Cytochrome P-450、Glutathione-S-transferaseの遺伝子多型を解析することによって、発癌物質に対する宿主の感受性について検討し、発癌物質に対して抵抗性であり、口腔癌になりにくい宿主の存在を突き止めた(Carcinogenesis,23:595-598,2002)。さらに、癌抑制遺伝子であるp53のDNA結合表面領域における変異が口腔扁平上皮癌の従来の臨床病理学的因子とは異なる独立した予後因子であることが示唆された(Oral Oncology,39:163-169,2003)。
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