研究概要 |
顎口腔を中心とする手術では,術後の上部気道狭窄や閉塞の頻度は際だって高く,さらに術後も全身麻酔薬の呼吸抑制作用の持続の影響も相加するため,上部気道障害を含めた呼吸障害の病態は極めて複雑である。その発生原因や発生機序の究明は,臨床的に極めて重要であるにもかかわらず,手術前後のCTや側方セファロ写真の比較分析で行った断片的研究しか見あたらず,今だ不明な点が多い。本研究は術後の上部気道障害を含めた閉塞性呼吸障害のダイナミックに変化する病態をX線テレビと超音波画像診断装置による機能形態学的解析手法と呼吸関連筋の筋電図や換気生理学的検査手法とを合わせてリアルタイムで包括的に分析・診断し,その原因と発生機序を解明することを目的としている。 1.低濃度の全身麻酔薬が三叉神経を介する反射機構に及ぼす影響 全身麻酔薬(低濃度)のケタミン、ミダゾラム、プロポフォールが三叉神経を介する反射機構jaw openingの一つであるExteroceptive Suppresslon(ES1 and ES2)へ及ぼす影響について検討した。すべての全身麻酔薬で脳幹部における三叉神経を介する反射機構には影響をおよぼさず,ケタミン,ミダゾラムは多数のシナプスを介すると予想される上位中枢を介する反射機構にも影響は認めなかった。しかし,プロポフォールにおいては上位中枢を介する反射機構の抑制が認められた。本研究成果は,全身麻酔薬が顎口腔機能を中心とする上部気道障害の解明に大きな手がかりとなる。 2.全身麻酔薬の呼吸機能低下が嚥下機能に及ぼす影響 全身麻酔薬による呼吸機能低下が術後の全身麻酔覚醒直後に認められることが多く,呼吸機能低下は誤嚥の誘発に繋がることが示唆された。本研究では,ウサギを使った実験モデルから呼吸抑制によって生理的な呼吸筋の動きが抑制され,気道内圧の低下と咽頭から食道への圧勾配が減少することが判明した。
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