研究概要 |
全身麻酔は,意識消失,鎮痛,筋弛緩,不動などの要素が複合した状態をいう.われわれは,選択的なGABA神経刺激が全身麻酔状態を生じるか,生じるとすればどの要素を満たすのかを明らかにするため,GABA分解阻害薬であるgabaculineやGABA取り込み阻害薬であるNO-711を全身投与し脳内内因性GABAを増加させ麻酔作用を検討した.実験動物としてはマウスを用い、薬物は全て腹腔内に投与した。その結果,gabaculineは意識消失の指標となる正向反射の消失を示しその50%有効量は100mg/kgであったが,全身麻酔状態の指標となる侵害刺激による体動の抑制は400mg/kgの高用量でも全く認められなかった.また,マイクロダイアリシス法による脳内GABA濃度の測定により,gabaculine 100mg/kgの投与は脳内GABAを31.8倍に増加させることがわかった。NO-711は50mg/kgの高用量においても失調性歩行が認められるのみで,脳内GABAの増加も2.7倍に過ぎなかった.これらのことから,選択的なGABA神経刺激は意識消失をもたらすが,生理的濃度の30倍以上もの脳内GABAが必要であり,しかも侵害刺激による体動は抑制しないことが明らかとなった,一方,われわれは,現在臨床応用されている静脈麻酔薬のプロポフォールがGABA神経促進とグルタミン酸神経抑制の両方の作用を有していることを行動薬理学的実験ですでに明らかにしている.さらに,今回の研究でプロポフォールの正向反射消失作用の50%有効量だけでなく侵害刺激による体動抑制作用の50%有効量も得られた.以上より,全身麻酔作用には少なくともGABA神経の促進とグルタミン酸神経の抑制の両方の作用が必要であることが示唆された.
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