研究概要 |
目的:私たち歯科医師は治療中の患者が気分不快となることを経験する.歯科治療を受ける患者にとって処置に対する恐怖心や不安感,注射針刺入,疼痛などがストレッサーとなり,気分不快,循環変動を起こすと考えられる.そこで,歯科治療中の自律神経活動を解析し,治療が患者にどのような影響を与えているか検討することを目的とした. 方法:口腔外科処置(下顎第三大臼歯の抜歯および外来小手術)が自律神経活動に与える影響を検討した.対象は研究に対して了承の得られた外来通院患者とした.モニター監視のみで行った対照群(C群)とミダゾラムによる静脈内鎮静法のもと行った群(S群)の二群に任意に分け研究を行い,観察項目は非観血的測定による収縮期血圧および拡張期血圧,心拍数,SpO2(BP-88,日本コーリン社製),心拍変動(Tarawa/Win, GMS社製)とした.観察時期は処置前安静時(pre),鎮静薬投与後(sed : S群のみ),局所麻酔開始時(la),局所麻酔5分後(post-la),抜歯時(ext),処置後安静時(post)とした.心拍変動は心拍ゆらぎリアルタイム解析システムで得られた低周波成分(LF)と高周波成分(HF)からそれぞれの比であるLF/HFを交感神経活動,HFを副交感神経活動として評価し,C群,S群を比較した. 結果:循環変動について血圧はC群では各測定時期で変化がなかった.S群ではsedにおいて低下した.心拍数は両群においpost-laで上昇傾向を示した.自律神経活動はC群において各測定時期のLF/HF, HFに変化を認めなかった.S群ではsed以降の各測定時期でHFの低下傾向を認めた. 考察:歯科治療のなかでも侵襲の大きいと考えられる下顎第三大臼歯抜歯が患者の自律神経活動に与える影響を検討された.循環変動について,両群にみとめられたpost-laでの心拍数上昇は処置時に使用した局所麻酔薬の影響と考えられた.また,S群におけるsed時の血圧低下はミダゾラム鎮静による循環抑制効果として,鎮静法が有用であったと考えられた.自律神経活動の評価は両群ともに一定の傾向は認められなかった.今回の方法では歯科治療中の自律神経活動を捉えることができなかったか,針刺入刺激や処置時疼痛により体動が起こり自律神経活動の記録に影響した可能性が考えられた.しかし,S群の歯科治療恐怖症患者で静脈確保時に気分不快と意識消失を起こした際,血圧低下,徐脈の循環抑制と白律神経活動としてわずかではあったがLF/HF低下とHF上昇がそれぞれ観察できたことから,ストレス緩和のための静脈内鎮静法には静脈確保が必要となるため,不快症状を起こさぬようさらに配慮が必要になると考えられた.
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