研究概要 |
創傷治癒過程における種々の遺伝子の経時的な発現変化について,背部皮膚創傷モデルマウスを用いて明らかにするとともに,内毒素性リポ多糖(LPS)による創傷治癒遅延機序の一端を明らかにするために,LPSに対する表皮角化細胞の応答性について検討した.得られた結果は以下の通りである.1.マウス背部皮膚に創を作製後,再生上皮組織の遺伝子発現変化を検討した.IL-6,IFN-γならびにケラチン16(K16)mRNAは創形成後より発現が増強し,7日後まで発現がみられた.また,TNF-α mRNAは6時間後より発現が増強し,21日後まで発現がみられた.2.LPS投与マウスの創傷治癒は非投与対照群と比べて遅延し,再生上皮組織におけるIL-6 mRNA発現に差はみられなかったが,IFN-γおよびK16 mRNA発現については変化がみられなかった.3.ヒト表皮角化細胞株HaCaTはTNF受容体およびIFN-γ受容体mRNA発現を示したが,CD14およびTLR4発現はみられなかった.4.TNF-αは同細胞のIL-8およびMCP-1 mRNA発現ならびにIL-8産生を誘導し,他方,IFN-γはMCP-1 mRNA発現の増強ならびにIL-8 mRNA発現およびIL-8産生誘導を抑制した.5.LPSを添加したヒト末梢血単核球細胞(PBMC)培養上清は,HaCaT細胞のIL-8 mRNA発現を増強した.6.TNF-αおよびIFN-γやLPS添加PBMC培養上清はHaCaT細胞の増殖を抑制し,LPS添加PBMC培養上清によるHaCaT細胞の増殖抑制は抗TNF-αあるいは抗IFN-γ抗体により抑えられた.7.TNF-αおよびIFN-γは,HaCaT細胞に対してアポトーシスを誘導した.感染局所で細菌の病原因子により誘導される宿主細胞からの内因性因子は,表皮角化細胞に作用し,細菌の感染局所における創傷治癒の遅延を惹起することが考えられる.
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