研究概要 |
エナメル形成不全症(AI)は遺伝性疾患の一つであり,エナメル質の形成に障害を及ぼし,臨床症状あるいは遺伝形式によって分類されている。概してAIはアメロジェニンの突然変異に起因するX染色体性と常染色体性の2つのタイプに分類される。これまでに,常染色体性AIは罹患率がX染色体性AIよりも極めて高いにもかかわらず,エナメリンの突然変異で起こる2〜3の症例を除いては遺伝的な原因についての報告はない。最近,我々はヒトのアメロブラスチン遺伝子のクローニングに成功した。アメロブラスチン遺伝子はエナメリン遺伝子の近傍に位置するヒト染色体4q21に存在し,他にコピー遺伝子のない非アメロジェニンタンパク質である。それゆえ,アメロブラスチンもまた常染色体性AIの原因遺伝子の候補であり,この遺伝子と常染色体性AIの関係を解明し,遺伝子診断の基準を確立することが必要である。その第一段階として,我々はAI患者の原因遺伝子を探る際の比較ポイントを明らかにするため,AIに罹患していないアジア人のアメロブラスチン遺伝子のポリモルフィズムを調べた。ゲノムDNAを用いて,ポリメラーゼ連鎖反応およびDNAシーケンシングを行うことにより,23人のアジア人(日本人19人,中国人2人,スリランカ人1人,タイ人1人)のアメロブラスチン遺伝子をスクリーニングしたところ,その翻訳領域において6か所の同義置換と4か所の非同義置換およびアミノ酸残基一つを完全に喪失する3つの連続した塩基の欠失を探知するに至った。塩基の置換や欠失は3'非翻訳領域やイントロン領域にも存在した。今回我々の得た結果はアジア人における常染色体性AIとアメロブラスチン遺伝子の関係を評価する上で有益な情報であるといえる。しかしながら,現在までのところ,調べたAI患者のアメロブラスチンおよびアメロジェニン遺伝子に病因となるような突然変異は見つかっていない。
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