研究概要 |
癌細胞や生殖細胞で活性の高いテロメラーゼは,補欠分子であるRNAを鋳型として利用し,染色体DNAの3'-末端に数回分のテロメア繰返し塩基配列を伸長する逆転写酵素である。伸長したDNAに相補的なRNAがプライマーとして働き,娘鎖DNAが複製される。(言うまでも無く,プライマーRNAと鋳型RNAは同じ塩基配列をする。)それゆえ,このプライマーRNAと同じ塩基配列(UAACCCUAA)を有するRNA類似体は,テロメラーゼの働きを阻害し,無限に分裂する癌細胞の増殖を抑制できると期待される。 そこで,今回,筆者は上記プライマーRNA(または鋳型RNA)のペプチド性類似体の分子設計と合成を計画し,実行した。具体的には,ウラシル(U),アデニン(A)及びシトシン(C)をα-位に持つアセトアルデヒド誘導体を,L-スレオニンアルドラーゼ触媒反応によりグリシンと縮合させ,U, A, Cをγ-位に有する3種のβ-ヒドロキシ-α-L-アミノ酸を得た(それぞれγU-Thr,γA-Thr,γC-Thrと略す)。これらアミノ酸をBoc-Gly-ONSuと反応させ,ジペプチドであるBoc-Gly-γU-Thr(OH), Boc-Gly-γA-Thr(OH)及びBoc-Gly-γC-Thr(OH)を調製した。また,Boc-Gly-γA-Thr(OH)及びBoc-Gly-γC-Thr(OH)は常法により,ペシジルエステルへと誘導した。これらBoc保護したジペプチド及びそのベンジルエステル体を出発物質としてDCC/HOBt/NMM法とBoc基の脱保護を繰り返し,UAAおよびCCCの塩基コードを側鎖に有する2種のヘキサペプチドを得ることに成功している。現在,最終段階として,これらヘキサペプチドを交互に繋いでプライマーRNAと同じUAACCCUAAの塩基配列を持つ「ペプチド性RNA」の合成の完了を急いでいる。
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