研究概要 |
軟体サンゴPseudopterogorgia sp.からはフラン単位を環内に有するビカロライドA、ピンナチンAやピンナチンJ等が単離されている。これらの構造上の特徴としてγ-ブテノリド単位と1,2位にあるanti-及びsyn-ホモアリルアルコール単位があげられる。本研究では、環状フルフリルエーテルの分子内[2,3]Wittig転位反応によるanti-及びsyn-ホモアリルアルコール単位の立体選択的合成法を確立した。すなわち、(5E)-5,15-ジメチル-3,16-ジオキサビシクロ[11.2.1]ヘキサデカ-1(15),5,13-トリエンをsec-ブチルリチウムで処理すると、ant-ホモアリルアルコールである(2R^*,3R^*)-3-イソプロペニル-12-メチル-13-オキサビシクロ[8.2.1]トリデカ-1(12),10-ジエン-2-オールを90%deで与えた。一方、幾何異性体である(5Z)-環状フルフリルエーテルをsec-ブチルリチウムとともに処理すると、synの(2R^*,3S^*)-体が90%deで得られた。さらに、環状フルフリルエーテルの不斉Wittig転位の開発にも成功した。 ピンナチンAのキラル合成研究も検討した。本研究では、鈴木クロスカップリングを用いることでシクロプロピルフラン部分のジアステレオ選択的な構築法を確立した。すなわち、光学活性シクロプロピルボロン酸とブロモフロ酸エステルとの鈴木クロスカップリングにより、対応する(1R,2R,2'S)-5-[2-(1,4-ジオキサスピロ[4.5]デカン-2'-イル)-2-メチルシクロプロピル]-3-メチル-2-フランカルボン酸メチルエステルを合成した。 次いでビピンナチンJの合成研究にも着手した。本研究では、Stilleクロスカップリングを用いることで(Z)型のビニルフラン部分の選択的な構築法及びγ-ブテノリドを有するプロキアルケンのキラル合成法を確立した。すなわち、(Z)-ブロモアルケンとトリブチルスタニルフランとのクロスカップリングにより望む立体化学を有する(S, Z)-1-(5-t-ブチルジメチルシロキシメチル-4-メチル-2-フリル)-2-メチル-4,5-O-(p-メトキシベンジリデンジオキシ)-1-ペンテンを合成した。一方、官能基化されたアレニルアルコールをRu触媒下で一酸化炭素の挿入反応に付すことにより(S,1E,5Z,9E)-1-ブロモ-11-t-ブチルジフェニルシロキシ-4-ヒドロキシ-2,10-ジメチルウンデカ-1,5,9,-トリエン-6-カルボン酸ラクトンに誘導することに成功した。
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