研究概要 |
金属イオンの測定には様々な方法があるが中でも蛍光金属キレート試薬による測定は、生細胞中金属の動的解析が可能なため注目されている。しかし、これまでに報告されているCa以外の金属を標的とした蛍光金属キレート試薬の多くは、感度や選択性が低く、脂溶性であるため細胞膜や脂肪組織に吸着される等の問題がある。そこで、一分子中に異なる二つの蛍光団(DonorとAcceptor)導入し、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)現象を利用した水溶性蛍光金属キレート試薬を新規合成し、各種金属とのキレート形成能、スペクトル特性、蛍光強度等を詳細に検討した。DonorおよびAcceptorとして、それぞれN-(3-Carboxy-2-naphthyl)-ethylenediamine-N, N', N'-triacetic acid (CNEDTA)、ベンゾフラザン系蛍光試薬を選択し、4種の試薬(DBD-APy-CNEDTA, ABD-APy-CNETA, ABD-ED-CNEDTA, DBD-ED-CNEDTA)を新規合成した。4種の試薬ともDonorであるN-(3-Carboxy-2-naphthyl)-ethylenediamine-N, N', N'-triacetic acid (CNEDTA)の励起波長ではその発光(480nm)を示さずAcceptorとなるベンゾフラザン系蛍光試薬の蛍光(560nm)を示した。しかし、DBD-APy-CNEDTA, ABD-APy-CNEDTA, ABD-ED-CNEDTAでは重金属イオンの添加により、蛍光強度はわずかに上昇したものの実用化には不十分と考えられた。一方,DBD-ED-CNEDTAではAl, Zn, Cd, La, Yの添加により蛍光強度が増大し、Cu, CO, Niでは逆に蛍光減少が観察された。またCa, Mgでは蛍光に変化は認められなかった。本試薬はpH7.5においてZnと1:1のキレートを形成し、蛍光が直線的に増加しZn未添加の蛍光と比較して強度が約4倍となった。生体試料への応用の前段階として、健康食品中のZnの測定を行ったところ、ICPと同様の結果が得られた。これまで、FRET現象を利用した蛍光金属キレート試薬の報告はなく、DBD-ED-CNEDTAは新しいタイプの蛍光金属キレート試薬と言える。
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