研究概要 |
(1)胃酸分泌を行うプロトンポンプは触媒鎖であるα鎖と,非触媒鎖である糖蛋白質β鎖からなる.本研究ではHEK-293細胞を用いてプロトンポンプのα鎖/β鎖の安定発現株細胞を構築した.安定発現細胞はカリウムイオンの代替イオンであるRb^+や,プロトンの輸送活性を示し,ポンプ阻害剤によって阻害された.我々はこのようにプロトンポンプのイオン輸送能を保持した安定発現細胞の構築に成功した. (2)ポンプのβ鎖に特徴的に存在する三つのジスルフィド結合の機能的な役割を明らかにする為に,β鎖に存在する9つのシステイン残基(6つはジスルフィド結合を形成し,他の3つはシステインとして存在する)に単独で,または複数組み合わせる形で変異を導入して,α鎖と共発現する安定発現細胞を構築し,各変異体の酵素活性,細胞内での存在部位等を観察した.その結果,各ジスルフィド結合は酵素活性の発現に必須であること,β鎖がα鎖と会合して細胞表面に発現するのに重要な役割を果たすことが明らかになった. (3)α鎖単独,β鎖単独発現細胞をそれぞれ構築し,細胞内でのα/βオリゴマー形成の調節機構を検討した.その結果,β鎖と会合しなかった過剰のα鎖は小胞体(ER)に留められてポリユビキチン鎖修飾を受けてプロテアソームによって分解されることが確認された.一方,β鎖はα鎖の有無に関わらずその安定性に大きな変化はなく,過剰のβ鎖も細胞膜表面に発現することが観察された.これらの結果から,細胞表面におけるαβ複合体の発現量はERでのたんぱく質の品質管理機構によって調節されることが明らかとなった. (4)温度感受性の大型T抗遺伝子を導入したラットの胃粘膜上皮細胞を出発材料にして不死化細胞株を構築した.細胞株は温度感受性に上皮様形態をとり,細胞毎に主細胞,壁細胞などに特異的なマーカーのmRNAを発現し,胃粘膜分化機構の研究に有用であることが確認された.
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