研究概要 |
癌転移の初期過程においては細胞接着分子を介する癌細胞と標的の組織との接着反応が重要である。本研究では,がん細胞の運動能,浸潤能へのVLA-3(α3β1インテグリン)の関与およびこの分子の発現制御のメカニズムを解明することを目標とし研究を進めた。 1.悪性黒色腫細胞の運動性におけるVLA-3インテグリンの役割:悪性黒色腫(メラノーマ)細胞株の運動性をボイデンチャンバー法により評価したところ,上皮様細胞株の無血清培養上清に含まれるラミニン5が細胞運動を促進することがわかった。また,固相化したラミニン5上でメラノーマ細胞を培養することにより,マトリックスメタロプロテイナーゼの一つであるMMP-9が産生放出されることが判明し,インテグリン等の細胞接着分子とマトリックス分解酵素の協同作用の重要性が示唆された。 2.α3インテグリンの発現制御メカニズム:マウスインテグリンα3サブユニット遺伝子の5'上流のDNA断片を単離し,この領域のプロモーター活性をルシフェラーゼ法により解析した。単離した4kbの上流配列を組み込んだレポータープラスミドを種々の培養腫瘍細胞株に導入し,そのルシフェラーゼ活性を調べたところ,α3インテグリンの発現レベルに相関した活性が認められ,この領域にプロモーター活性が存在することが示唆された。次いで,4kbのDNA断片を段階的に欠失させた各種デリーションプラスミドのプロモーター活性を比較した。その結果Exon1の上流約200〜300bpの間に転写調節領域の存在が示された。また,この領域に存在するいくつかの転写因子結合コンセンサス配列のうち,変異の導入実験よりEtsがん原遺伝子産物が転写調節に重要であると考えられた。
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