研究概要 |
ATP受容体チャネル(P2X受容体)の構造と機能の関係を探究する目的で,分子生物学的手法による変異導入(アミノ酸置換)を行ない,また,その発現状態を確認する目的でGFP分子可視化法を併用した.これまでの研究で,P2X2受容体タンパク質の細胞外領域のサブクラス間で保存性の高い並列したグリシン残基のうち,247番目のグリシンをアラニンに変えると受容体のイオン・チャネル活性が失われることを見い出している.この領域はtRNAアミノアシルシンテターゼのATP結合部位と構造が似ていると推定されている.tRNAアミノアシルシンテターゼでは,ATP分子のアデニン部分の認識に芳香族アミノ酸残基が関与するとされている.そこで,P2X2受容体のこのグリシン残基付近の保存性の高い芳香族アミノ酸残基である240番目のフェニルアラニンと256番目のトリプトファンに対してアミノ酸置換を行なった.その結果,256番目のトリプトファンがイオン・チャネル活性に必須であり,チロシンで置換した場合には活性が残るものの,他のアミノ酸では活性が完全に消失することが判明した.活性が認められない変異体の細胞膜上への発現はGFPを結合させた受容体の蛍光像および膜分画のウェスタンブロットにより確認された.よって,トリプトファンに対する置換は受容体タンパク質の翻訳あるいはトラフィッキングに影響するのではなく,膜上のタンパク質の構造を変化させるものであることが示唆された.以上の研究より,分子生物学的手法とGFP可視化法の併用が,受容体の構造-機能相関を解明する上で有用であることが示された.この他,チャネル開口部に存在する333番目に中性アミノ酸残基を導入した実験より,この部位のアミノ酸残基がカルシウムのチャネル孔への接近を立体障害的に妨害することを示した.さらに,細胞内のジスルフィド結合が受容体のATP感受性に影響することを示した.
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