研究概要 |
現代医療において薬剤耐性菌の出現は大きな問題であり、これの克服は医薬品化学の重要な命題である。そして薬剤の開発は耐性菌出現との競争となっている。しかし、従来の医薬品と異なる有機化合物に対する耐性は出現しにくいと考えられる。1985年に存在が確認されたフラーレンは従来の有機化合物とは骨格から異なり、ユニークな物理的、化学的性質を有している。本研究は、このようなフラーレン誘導体であるC_<60>-bis(N, N-dimethylpyrrolidinium iodide)(A)が抗菌活性を持つことに基づいており、薬剤耐性菌にも有効な抗菌活性を持つフラーレン誘導体を創製することを目的とした。そして、C_<60>-bis(N, N-dimethylpyrrolidinium iodide)の位置異性体の分離情製、長鎖アルキル基を有する誘導体の合成を行い、それらの抗菌活性を測定した。さらに抗菌機構の解析も行った。Aの位置異性体としてt-2(1),t-3(2),t-4(3)を精製し、大腸菌生育抑制効果を検討したところ、いずれもバンコマイシンに匹敵する活性を有しMRSAにも有効であった。位置異性体間での活性に差が認められないことから、位置異性体を分離する必要性がないことが明らかとなった。ピロリジン環2位にブチル基(4)、ヘキシル基(5)を導入した誘導体では多少活性は低いが有効であった。さらに、1〜5はバンコマイシン耐性菌にも有効であり新規抗菌剤リード化合物として有望と考えられる。しかし、さらに長いアルキル基を有する6〜8では抗菌活性は認められなかった。1〜5には呼吸鎖阻害活性があったが、長鎖アルキル基を有する誘導体にはなかった。以上の結果は抗菌機構が呼吸鎖阻害であることを示している。適度な脂溶性が抗菌活性と呼吸鎖阻害作用に重要であることが明らかとなった。
|