研究概要 |
画像診断の進歩によりヨード造影剤(RCM)の使用は益々増加しているが、RCMによる肺障害及びアレルギー様症状等の副作用の発現に関する問題は依然として解決されていない。本研究ではこれらの副作用発現機序の解明と予防法の確立を目的としてラット血管透過性亢進in vivoモデル,ラット単離肥満細胞を用いて以下の成果を得ることができた。 1.RCMによるラット肺浮腫における肥満細胞由来ヒスタミン(HA)の関与 イオン性RCMであるイオキサグレートはラット肺における肥満細胞の脱顆粒を引き起こし,HAを遊離することによって血管透過性亢進作用を発現すること,また,この作用にはH_1及びH_2両HA受容体が関与することが判明した。 2.RCMによるラット単離肥満細胞からのHA遊離機構 種々のRCMは肥満細胞からのHA遊離を濃度依存的に亢進し,その作用はイオン性RCMにおいてより顕著である。さらにイオン性RCMによるHA遊離には細胞内cAMPの低下及び細胞内Ca^<2+>濃度上昇が関与することを明らかにした。 3.RCMによるラット肺血管透過性亢進機序の解明 RCMは肥満細胞からHAのみならずトリプターゼも遊離させ,トリプターゼは血管内皮細胞に存在するproteinase-activated receptor-2(PAR-2)を刺激することによりカドヘリン等の細胞間接着蛋白の構造を変化させ,透過性元進を引き起こすことを明らかにした。さらに,トリプターゼ阻害薬であるナファモスタットは,ヒトトリプターゼに対して極めて強力な阻害活性を示し,RCMの副作用に対する有用な治療薬になることが期待された。 4.培養ウシ血管内皮細胞におけるPAR-2を介したタンパク透過性亢進作用 血管内皮上にあるPAR-2は肥満細胞由来トリプターゼ等により活性化され,PLC活性化/細胞内Ca^<2+>上昇/PKC活性化により内皮細胞バリア機能に破綻を来たすと考えられ,これは造影剤による血管透過性亢進の発現機序に深く関与することを提示することができた。 5.RCMによるラット肺血管透過性亢進ならびに肺機能低下に対するカルバゾクロムスルホン酸の改善作用 カルバゾクロムスルホン酸は血管内皮細胞におけるバリア機能を強化することによってRCM誘発性血管透過性亢進を抑制することが見出され,RCMによる透過性亢進に基づく副作用の予防もしくは治療薬としての有用性を明らかにした。
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