研究概要 |
本年度は下垂体疾患における下垂体で発現する既知の遺伝子に対する自己抗体を検討した。 ホルモンプロセシング酵素と関連蛋白に対する自己抗体の診断的価値を検討した(Tatsumi, Tanaka et al. 2003, Endocrine)。対象症例は、自己免疫性視床下部下垂体炎患者14例、ACTH単独欠損症10例、TSH単独欠損症4例、Sheehan症候群3例、非機能性下垂体腺腫11例。PC1/3、PC2、CPE、7B2に対する抗体価を、それぞれのcDNAを用いたラジオリガンド法により検討した。PC2とCPEに対する自己抗体は全症例陰性であった。PC1/3に対する自己抗体は自己免疫性視床下部下垂体炎患者2例と非機能性下垂体腺腫5例で、7B2に対する自己抗体はリンパ球性自己免疫性視床下部下垂体炎患者2例、Sheehan症候群1例と非機能性下垂体腺腫6例で陽性で出現した。抗PC1/3抗体と抗7B2抗体の2種の抗体陽性例を合わせると、非機能性下垂体腺腫で11例中10例で陽性となり、LHで11例中4例で陽性であったのに比し有意に陽性率が高くなった。従って、抗PC1/3抗体と抗7B2抗体は組織破壊に伴い二次的に出現しやすいと考えられ、目的とは逆の結果であるものの、非機能性下垂体腺腫とLHの鑑別診断に有用である可能性がある。非機能性下垂体腺腫で高率に陽性になった理由としては、腫瘍組織の壊死や下垂体組織浸潤による下垂体抗原の提示が自己抗体の生成に働いたと考えられる。 この他、α-enolaseは組織特異性は無いものの、最近、Crockらが自己免疫性視床下部下垂体炎で自己抗体を50%と健常人や下垂体腫瘍に比べ高頻度に認めた下垂体細胞質分画の49kDa蛋白抗原として報告したのでα-enolaseに対する自己抗体も測定した(Tanaka, Tatsumi et al. 2003, Endocr J)。抗α-enolase抗体はリンパ球性下垂体前葉炎1例、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎3例、Sheehan症候群2例と非機能性下垂体腺腫3例で認めた。従って、α-enolaseはCrockらが1998年までに報告したイムノブロッテイング法の主要抗原とは異なると考えられた。
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