研究概要 |
急性期蛋白であるα_1酸性糖蛋白(AGP)は、各種病態時に血中濃度だけでなく糖鎖構造も変化することから、急性炎症と糖尿病患者血清中AGPの糖鎖構造を比較した(Clin Chim Acta,2003)。血清試料からAGPを抗体カラムで精製し、N-Glycanaseで遊離した糖鎖をSialidase消化し、得られた中性糖鎖をMALDI-TOFMSで定量した。AGPの糖鎖は個体差が少なく、二〜四本鎖複合型糖鎖からなり、α1-3結合Fucを持つSialyl Lewis X(sLeX)は高分岐糖鎖で高い割合を示した。急性炎症患者では二本鎖の増加と三本鎖の減少、sLeXの増加が有意であった。II型糖尿病では炎症と同様の傾向であったが個体差がみられた。 AGPは1分子中の5カ所のAsnに結合した二〜四本鎖の複合型糖鎖構造を持つことから、急性と慢性炎症患者血清中AGPの糖鎖結合部位別の糖鎖構造の解析を行った(投稿準備中)。精製したAGPをGlu-Cで加水分解し、Site IからVの5種の糖ペプチドをHPLCで単離した後、中性糖鎖をMALDI-TOFMSで定量した。健常人血清中AGPの糖鎖は、Site Iには三本鎖、Site IIには二本鎖と三本鎖が多く、四本鎖はSite IIIからVにのみ存在していた。また、SLeXはすべてのSiteにみられ、高分岐糖鎖の多いSite IIIからVで多くみられた。急性炎症患者血清中AGPの分岐糖鎖分布には健常人と質的差異がみられないが、Site II以外で二本鎖の増加、Site IとIIでの三本鎖の減少、Site IVとVでの四本鎖の減少がみられ、慢性炎症に比べ急性炎症で顕著であった。一方、SLeXはすべてのSiteで増加しており、SiteinからVでの増加が顕著であり、これらの傾向は慢性よりも急性炎症で顕著であった。 ヒト肝癌細胞株HuH7とHepG2の分泌型糖蛋白の糖鎖構造を解析した(Anal Sci,2003)。HuH7のAGP糖鎖は正常血清と比べてSLeXの増加が見られたHepG2のトランスフェリンやα_1-抗トリプシン、α_2HS糖蛋白白、β_2糖蛋白□の糖鎖は3本鎖と4本鎖糖鎖の顕著な増加、2個以上SLeXを持つ糖鎖の顕著な増加が静められ、α1-3フコース転移酵素活性が高値であった。 SLeXの機能を明らかにするために、ヒト肝癌細胞株HepG2培養上清から精製したSLeX高発現糖蛋白の固相化プレートを作成し、NK細胞の刺激を行ったSLeX刺激後にリン酸化蛋白をウエスタンブロットで検出した結果、17kDaにTyr-リン酸化蛋白の増量が認められたことから、SLeXがNK細胞の活性化制御への関与が考えられ、詳細な検討を行っている(未発表)
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