研究概要 |
先行研究において報告された、座位・立位での健常者ヒラメ筋H反射の変化の確認、並びに片麻痺患者上肢患速における立位時でのH反射の増大という昨年度の実験結果を受けて今年度はIa終末部でのシナプス前抑制の動熊、および購入した磁気刺激装置を用いて皮質性性制御機構について検討した. ヒラメ筋・FCR両筋でシナプス前抑制を検査できるD1抑制法を実施した.FCRではD1抑制の時間帯において両条件間に差は見られないが,ヒラメ筋では立位条件においてD1抑制が減弱した.これら健常者での結果から,ヒラメ筋では先行研究と同様,座位に比べ立位条件下ではIa終末部でのシナプス前抑制が減弱しており,しかも,筋電図の無い立位条件での結果,つまりIa入力が押さえられている状況であることを考え合わせれば,立位条件下ではシナプス前抑制介在ニューロンの活動は下行性入力によって増強され,その結果H反射が減少したものと考えられる.一方,FCRでは座位,立位条件間でのシナプス前抑制の差異は認められず,健常者での座位・立位条件でのFCRH反射の結果と符合していた.一方,片麻痺患者患側FCRから記録した座位・立位条件におけるD1抑制を見ると,健常者と同様に座位・立位条件ともにコントロールに比べて有意にD1抑制効果が認められた.実際,立位においてより著名なD1抑制効果を認めた被験者について,座位・立位条件でFCRH反射を観察すると、立位条件でのシナプス前抑制の減弱を裏づけるように同条件下での著明な増大が見られた.姿勢条件の違いによるIa終末部のシナプス前抑制の動態が判明したことを受けて,経頭蓋磁気刺激による運動誘発電位(MEP)をFCRから誘発し,運動ニューロンに対する皮質脊髄路性制御について検討した.その結果,健常者,片麻痺患者とも座位・立位条件間にMEP振幅の差異は見られず,FCR運動ニューロンへの皮質脊髄路性制御の関与は認められなかった.この結果は,片麻痺患者で観察された座位・立位条件間でのFCRH反射の変化は運動ニューロンへの下行性制御によるものではなく,シナプス前抑制介在ニューロンへの下行性制御によるものであることを示唆するものと思われる. 下肢は立位で体重を支えるという重要な抗重力機能を有している.そして,通常の歩行,beam walkingなどのより難しい運動課題や走行時には,運動ニューロンに対するIa入力をシナプス前抑制によって制限することで伸張反射の利得を押さえ,上位脳からのコントロールにより依存した制御を可能にしているものと考えられる.上肢では,伸張反射機能は下肢に比べ弱く,運動野での支配領域の広さからもわかるように上位脳による制御により依存していることは明らかである.片麻痺患者では病変によってこの機能が障害され,シナプス前抑制が減弱した結果,座位条件下に伸張反射亢進が観察され,立位への移行によってさらに伸張反射亢進が生じているのではないかと考えられる.
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