研究概要 |
ヒトやラットの脂肪組織や脂肪細胞に一酸化窒素合成酵素(NOS)が発現し,一酸化窒素(NO)が脂肪細胞の脂肪分解反応に抑制的に働くことが示されている.しかし,脂肪細胞のトレーニングによる脂肪分解反応増強機構にNOが関与しているか否かは全く分かっていない.本研究では,9週間のトレーニングを課したラットの脂肪細胞と脂肪組織において,そのNO生成量やNOによる脂肪分解抑制作用について検討した.実験には,4週齢のWistar系雄ラットを用いた.イソプロテレノールによる脂肪組織の脂肪分解反応は,NOS阻害剤であるN^G-nitro-L-arginine methyl esterによって増加するが,その増加率はトレーニングラットで有意に大きかった.このことから,トレーニングラットの脂肪組織ではNOによる影響をより強く受けていることが示唆された.しかし,単離脂肪細胞からのNO生成量およびNOS活性はトレーニングで有意に低下していた.一方,脂肪組織切片のNO生成量はトレーニングによって有意に増加し,これはNOS活性とeNOSタンパク発現量の増加に起因していた.この結果から,脂肪細胞外のNO量はトレーニングによって増加することが示唆された.また,NO供与剤であるSNAP (S-nitroso-N-acetyl-penicullamine)の抑制効果はトレーニングで有意に亢進していた.この結果は,トレーニングによるNOの脂肪分解抑制作用の亢進は,脂肪細胞膜のアデニール酸シクラーゼより上流で起こっていることを示唆している.以上の結果から,トレーニングによって脂肪細胞を取り巻くNO量が増加し,さらに脂肪細胞のNOに対する反応性が増大することが明らかになった.
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