研究概要 |
本研究では,一過性運動が脳の酸化ストレスとレドックス調節タンパク質のチオレドキシン(TRX),レドックスファクター(Ref-1)の発現にどのような影響を及ぼすかを検討した。8週齢ICR系雄マウスによる一過性のトレッドミル走運動(20m/min,60分間)を負荷した。脳は安静時,運動毒後,運動後3,6,12,24,48時間後に採取した。また,ラットの一過性トレッドミル走(25m/min,60分間)直後の脳についても検討した。マウス血漿コルチコステロン濃度は,運動直後に安静時の約3倍の有意な(P<0.01)増加を示した。酸化ストレスの指標であるカルボニルタンパク質は運動後48時間まで変化は認められなかった。4-HNE修飾タンパク質は総発現量として運動後48時間まで顕著な変化はみられなかったが,推定分子量45kDaと27kDaにおける修飾タンパク質は,運動後12時間後に若干増加する傾向がみられた。TRXの発現は運動直後から漸次低下傾向を示し,運動後48時間には有意な(P<0.05)減少が認められた。Ref-1の発現は運動後48時間まで変化は認められなかった。ラットの運動直後のカルボニルタンパク質は変化がみられなかった。4-HNE修飾タンパク質は推定分子量45kDaのタンパク質が運動直後に有意に(P<0.05)低下した。TRX, Ref-1とも運動直後で変化は:なかった。これらの結果から,マウスの60分間の一過性運動では,脳への酸化ストレスは少なかったと推察されるが,特定のタンパク質については酸化修飾が増加する可能性が示唆された。脳TRX発現量が運動後低下したことは,今回の運動が酸化ストレスを顕著に増加させなかったためか,またはTRXが細胞内レドックス調節や抗酸化作用に働いて酸化型TRXとして細胞外へ流出され,細胞内プールが減少したためではないかと考えられる。
|