研究概要 |
本研究の目的は,中部日本の山岳地域において,最終氷期には広く分布したものの,現在は分布を縮小し,遺存的に点在している植生(遺存植生)を見いだすことにある. おもな結果と意義は以下のようである.遺存植生のタイプとして,後氷期に分布を縮小した樹種(チョウセンゴヨウやトウヒ属バラモミ節樹木,カラマツ属樹木など)からなる微少林分と,山岳稜線上部に点在する草原植生が見いだせる.前者の分布は中部山岳,特に八ヶ岳や赤石山脈中,北部の岩塊斜面や岩礫尾根に点在する.後者は,奥秩父山地東部や大菩薩連山や奥多摩山地の稜線部などに主に分布し,一部は丹沢・富士・箱根地域にも現れる.植生の種類組成は大陸に分布の本拠を持つ植物群(満鮮要素)の割合が高い.遺存植生の分布を整理すると,大部分は本州中部,内陸部の山岳斜面や山岳上部に現れている.分布環境的には,通年乾燥し,冬季には寒冷な立地である.これは最終氷期日本列島の,寒冷,乾燥環境に類似し,現在では北東アジア大陸部の環境に近い.以上の復元結果から,日本列島の植生変遷史についての以下のようなシナリオをある程度検証できた.すなわち,最終氷期には,より寒冷,乾燥な大陸的な気候が中部日本では卓越していたが,後氷期になって,温暖,湿潤で多雪な気候条件に変化した.それと呼応して,最終氷期に中部日本に広がっていた植生は,寒冷,乾燥の卓越する大陸的な気候条件を追う形で,現在の分布地へ逃げ込み,残存した.
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