研究概要 |
本研究は,中国大陸上における梅雨前線擾乱の形成・維持過程の解明を目的とし,(1)長江流域に多降水をもたらす擾乱の形成に関わるチベット高原東側下層に現れる低温域の形成過程,ならびに(2)長江流域以南において梅雨前線活動の活発化をもたらす総観場の時間推移を明らかにした. (1)について:チベット高原東側に出現する低温域は,35°N付近と40°N付近に出現しやすい.35°N付近に出現する低温域は,チベット高原北側から高原東側に南下してきた低気圧と高気圧の間に形成される.低温域出現の2日前から当日にかけて,チベット高原東側の30°N付近で対流圏中下層の東西方向の鉛直シアが増大し,それに伴う南北断面内の二次的な循環と考えられる下降流と上昇流が鉛直シア極大域の北側と南側の下層に出現する.この下降流域の上層には上昇流が存在し,そこでは凝結による加熱が認められ,対流圏中上層では雲・降水が発生していると考えられる.下降流域では蒸発による冷却が認められ,雲粒・雨粒からの蒸発により気塊が冷却され低温域が形成されたと考えられる.一方,40°N付近に出現する低温域は,チベット高原北側からの傾圧波に伴って形成される.トラフの通過後に,トラフの西側の下降流域において,雲粒・雨粒からの蒸発によりトラフ西側の寒気がさらに冷却されて低温域が形成されたと考えられる. (2)について:長江以南における多降水帯形成に至るプロセスは多様であり,大別すれば,中高緯度循環からの傾圧波の伝播が関係する場合や,南シナ海における高度場の正偏差と華南南部において南西〜西風の強化が関与する場合,500hPa面においてチベット高原上を東進してきた低気圧による場合などがみいだされた.このうち,主要なものは全体の約6割を占める傾圧波の伝播に伴うものである.
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