研究概要 |
研究者らは,1991年からタイ政府の許可を得て,継続的に北タイの未電化の農村(アンカイ村)で村人の生活についての詳細な調査をおこなってきた.主要な調査項目は,全村人の氏名・年齢・職業・家族関係,生活時間,耐久消費財・生産財の保有状況等など(毎年調査項目),家計収支構造,生活価値観,情報受容度等(2年目調査項目),伝統・習慣,性役割,村落共同体の構造等(3年目調査項目)などである. 平成13年度から15年度の3年間に,科学研究費補助事業として家族関係の変容と生活構造の変貌に関して,質問紙調査,面接調査,観察調査および文献調査等の現地調査を5回実施した.得られたデータを,クロス分析その他の方法を使い,SPSSを用いてエスノグラフィカルに検討・解析した. この村は1996年の末に電化された.電化後,村人はテレビを通じて大量の外部情報を受け取っていた.彼らは先進地域の近代的な生活に大いに関心をもち,便利な生活を実現するために情報戦略を用いて,様々な行動を取らねばならないことに気が付いた.彼らはさかんに有益な情報を収集し,それらを仕事に生かした.その結果,出稼ぎに出る者や就学のために都会に出て行く者が増加している. 商品経済化と社会情報化の進展は彼らの意識・行動・生活価値観を変化させ,共同体を変容させた.電化を契機に大量の社会情報がこの村に流入したため,従来の情報キーパーソンであった村長や村役人,長老,先生などの共同体における地位が相対的に低下した.家族関係は,あまり目立った変化をみせていないが,情報化と経済化の進展につれて,家族機能の外部化が認められた.さらに,商品や人の国際化がこの村で起きている.将来,この現象はこの村の家族の構造と機能の変化を加速させるであろう.
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