研究概要 |
本調査は科学者,技術者の実践をエスノグラフィックな手法で調査したものである.調査によって明らかになったことは,科学者,技術者は自らが各分野における社会的ネットワークの構成メンバーであり,かつ,そのネットワークの構築,維持,再編に参加する活動のなかで自らの研究・関発,学習,技術関発,技術の達成を実現させているということである.例えば,実験室における"個人"の実験,あるいは,研究テーマの形成はその研究者が一人で行っているわけではなく,様々なメンバーからなる研究室コミュニティ,並びに,研究室を超えた異分野を含む社会的ネットワークのなかで可能になっている.ある植物遺伝子工学研究室では,教授,助手,学生仲間は等しく学習を構造化する資源(リソース)として機能していた.また,この研究室の教授と助手は研究室以外のコミュニティ,例えば,企業の研究所との共同研究をオーガナイズして学生を社会とリンクする植物遺伝子工学実践ネットワークへ参入させている.他方,研究室コミュニティには認知的道具(実験ノートなど)が蓄積され,メンバーのフォーマル,インフォーマルな知識・技術へのアクセスをサポートしている.つまり,この研究室は「植物遺伝子工学実践へのアクセスを保証する」しくみによって構成され維持されている.このようにして個々の参加者は実践共同体への関わりのなかで社会的関係を変化させ,そのプロセスを通して知識や技術を進展させている.技術実践の場合も同様である.技術形成は社会システムとの関係の中にある.ある社会的なシステムの中に位置づかない技術は使われることはない.ネットワーク,或いは,社会システムの構築,維持,再編のなかで科学者,技術者の学習は生起している.
|