研究概要 |
わが国の伝統文化である書道(毛筆)は,学校教育だけでなく社会教育としても関心が高く,多くの教室や講座(通信教育を含む)が開設されている。しかしその指導方法は,書かれた文字をみて指導者が評価し助言を与える経験的かつ結果対応型が主で,筆圧や筆の動きなど書字中の作業については指導が難しく,方法も十分に確立しているとはいえない。同様に,学習における最も一般的な教材である手本についてみても,示されるのは基本的に墨で書かれた文字であって,結果そのものといってよい。学習に未習熟なものにとっては,墨文字だけをみて書き方を推測することは極めて困難であり,個人での技能の上達は難しい。 このような習字学習の改善を図る手段として,本研究では習字を技能学習の一つと捉え,文字を書き上げる過程すなわち技能情報に着目した教材を開発し,学習方法の提案をおこなった。具体的には,筆先から用紙に伝える力(筆圧)の変化およびその位置変化(筆速および筆の軌跡)を簡便に測定できる装置(技能学習装置)を開発し,書字作業中の技能情報を学習に役立てるための教材および指導方法の検討を行った。毛筆作業中の筆圧や動きを数値化し,客観的かつ視覚的に捉えられるようにすることは,毛筆技能を上達させる上で有効な手段となりうるだけでなく,情報通信機器を利用することで,遠隔地間におけるリアルタイムの書道指導をも可能とすることができ,他分野への応用も広いと考えられる。 なお,今回"技能情報を加えた学習用教材(学習用半紙)"を用いた実験では,「押さえ」や「払い」といった基本的書字技能に関わる事項で効果が認められ,習字の作業過程すなわち技能情報を活用することの有効性を確認することができている。
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