連邦制を採用しているカナダの場合、教育は州政府の管轄で、かつ同一の州においても地区教育委員会や各学校レベルでもかなりの自由裁量が認められている。このように地方分権化が進んだ教育制度の中で連邦政府レベルの公用語政策と各学校現場で行われている第二言語教育の連携の実態を把握するためには、連邦政府・州政府・地域教育委員会・学校の間の協力関係を詳細に分析する必要があった。よってこの今回の研究ではそれぞれのレベルでの協力関係を集中的に観察・調査できるオンタリオ州のオタワ(カナダの首都)を調査対象地域とした。当地では、まず公用語長官局を訪問し、カナダの公用語政策についての聞き取り調査と関係資料の収集を実施した。さらに、公立小学校での第二言語としてのフランス語教育(FSL : French as a Second Language)の授業観察や教育委員会での聞き取り調査を中心としたフィールド調査を実施した。この現地調査によって、カナダの公用語政策とFSLの連携の実態をより把握することができた。具体的には、カナダ憲法と公用語法が公用語政策とFSLの連携に対する法律的基盤と社会的基盤を提供していると同時に、連邦政府も憲法と公用語法の理念に則り、州政府を通じて様々な形でFSLに財政支援を実施している実態が見えてきた。連携の具体的成果としてFSL教育、中でも高度なコミュニケーション能力の育成が期待されるイマージョン教育の拡大とカナダ国内での特に若者の間でのバイリンガル率の向上が指摘できるが、これらの結果が憲法と公用語法の理念をさらに強化するという循環サイクルの存在も指摘できた。英語を通しての国際的コミュニケーション能力の育成が緊急課題である日本の英語教育にとって貴重な示唆が多く得られた。
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