研究概要 |
本研究では,認知的研究を拡張し,図形カリキュラムを考察するための基礎理論を構築するために『認識論的研究』を行った。図形概念に関する認識論的研究は,図形概念の数学的意味を探究する「数学的認識論」,図形概念の理解に関する認知的研究を中心とした「心理学的認識論」,そして両認識論に基づいて図形指導における図形概念の認識の変容を明らかにする「数学教育的認識論」の3つの枠組みにより捉えることができる。 心理学的認識論については,これまでの認知的研究を整理するとともに,図形指導との関連についても整理し,認知的研究の展望と認知的研究の課題を明らかにした。指導過程に関する研究,表現様式の意味に関する研究,カリキュラム研究,そして認知的研究を拡張した研究の必要性を論じた。 数学的認識論については,図形概念に関する存在論的考察,形而上学的考察,数学史的考察を行い,図形概念の数学的意味は現実主義的,経験主義的に認識されることが特徴であることを論じた。また幾何学がもつ空間性と論理性の観点から子どもの認識の発達過程を捉えた。そして小学校と中学校の図形指導の違いを,図形概念の現実性と理想性,経験性と先験性,相対性と絶対性の観点から探究した。 数学教育的認識論では,まず現象学的研究により図形感覚の意義や特質,知覚的機能を探究し,図形指導における図形感覚の意味を明らかにした。また図形感覚の認識に関する教授学的研究を行い,図形感覚の諸機能を育成するための教材例を示した。次に,図形の授業場面に関する現象学的研究に基づいて,図形概念の理念性の認識から客観性の認識に至る過程を分析した。さらに図形の明証性の認識に着目して現在の図形指導を反省した。最後に,確かな図形認識を育てる図形指導を実現するために,直観と論理を融合した図形指導を構想した。
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