研究概要 |
本研究では,ストーリーを語る際に登場人物を指示する表現形式がどのように選択されているか,そしてそれが談話の意味的なまとまりとどう関わっているのか,日本語母語話者および日本語学習者による語りの談話データをもとに考察を行った。データには,語り手にアニメーションのビデオを見せ、その後そのストーリーを聞き手に話してもらうという実験によりえられた会話を用いた。 指示表現とは,談話中の人や物などの対象を表す表現とし,いわゆる「こ・そ・あ」などの指示語は指示表現の下位概念と位置づけられる。指示表現の形式を名詞句と省略形の2つに分けると,先行研究などから次の3点が指示表現形式の選択の原則としてまとめられる。1)指示対象が初めて談話に導入されるときは名詞句で表される。2)聞き手の意識の中心にある指示対象には省略形が使われる。3)指示距離が遠い場合や,干渉要素がある場合は名詞句が使われる(Clancy 1980,Givon 1983)。 これらの原則で多くの指示表現の使われ方は説明できるが,日本語母語話者の談話には,省略可能な文脈で名詞句を使ったり潜在的にあいまいな省略形を使用したりと,これらの原則では予測できない使われ方が見受けられた。それは一見原則を破っているように見えても,それらの指示表現の使い方が談話のまとまりを示す一手段となっている。それに対し学習者の談話では,動作主が変わるたびに名詞句を用いたり,主要な登場人物に省略形を使い続けたりして,談話のまとまりをうまく示せないという場合が見られた。
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