研究概要 |
本研究は、日本に在住する最大マイノリティ民族である在日コリアンが、半世紀にわたって学校法人朝鮮学園を通じて継続してきた継承語教育の言語教授法とその成果を明らかにすることを目的とした。朝鮮学校に学ぶ生徒は3〜5世であり、日本語を母語とする。したがって朝鮮学園の実践は、第2言語である朝鮮語を教授言語とすることで日本語・朝鮮語のバイリンガルを育てるイマージョン教育である。本研究では、Hamers and Blanc (2000)にまとめられたバイリンガリズムと言語習得モテルを理論的な枠組みとして用い、エスノグラフィーの方法で京都市と近隣の4幼稚園のイマージョン教育を観察した(Hamers, J.F.and Blanc, M.H.A.(2000).Bilinguality and bilingualism, Second edition. Cambridge : Cambridge University Press.)。 本研究では、1)朝鮮学園幼稚園期に、どのようなイマージョン教育が行われているか、また、2)どのようなスピードで、どのような順序で、日本語しか話せなかった幼児が朝鮮語を習得していくのか?を研究課題とした。研究課題1)についてはまず「日常生活のルーティーン」(出欠点検、日付と天気の確認、朝の挨拶と体操、食事、帰りの会)を記述した。次に、幼児教育の中にふんだんに第2言語のインプットを組み込んだ「野菜の観察」、「朝鮮相撲と腕相撲」の授業、第2言語のアウトプットの機会を確保する「かくれんぼ」、「絵語り」、「創作劇遊び」の授業を分析・記述した。研究課題2)の言語習得については、まず横断的(年少児、年中児、年長児の言語能力)に一般的傾向をまとめ、次に縦断的に特徴のある4児の2年間の変化を追い(通時的記録)、最後に個人差とグループ間の差(多様性)という観点から幼稚園児の言語習得をまとめた。園での日常生活を通じて早ければ年少期の冬には第2言語を産出し始め、年中期には言語要素を分析的にとらえ、年長期には長いモノローグも可能になるなど、幼稚園イマージョン教育は、幼児に非常に高い第2言語能力を育てているといえる。
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