研究概要 |
VLSI技術は,その微細化と大規模並列化に伴い,配線の複雑さに起因する性能限界が深刻になりつつある.本研究では,無配線分子コンピューティングの可能性を集積回路工学および計算機科学の両面から検証した. 1.人工触媒素子のモデルを定式化するとともに,これをマイクロ電極デバイスによって実現する方式を検討した.人工触媒素子に基づく無配線集積回路では,物質濃度の時空間パターンに情報をコーディングすることにより,反応-拡散のダイナミクスを利用した高並列情報処理が可能になると考えられる.そこで,可逆なレドックス分子を情報担体として,その生成・消滅を多数のマイクロ電極デバイスで制御することにより,目的に応じた反応拡散場が人工的に形成できることを実験的に検証した.具体的には,多数のPtマイクロ電極をガラス基板上に2次元的に集積化したマイクロ電極アレーを試作し,興奮性ダイナミクスを有する反応拡散場をチップ上に形成できることを実験的に実証した. 2.反応拡散ダイナミクスのパターン形成能力をテクスチャ画像の生成・複元や経路探索などの問題に適用することに焦点をしぼり,本研究代表者が提案する「ディジタル反応拡散システム(DRDS)」と呼ぶモデルに基づく理論研究を行った.まず,典型的なテクスチャ画像である指紋画像の修復・復原のためのアルゴリズムをDRDSに基づいて構築し,その性能評価を行った。その結果,1/25程度に画素数を間引いた指紋画像であっても,十分な精度での復元が可能であることが明らかになった.次に,興奮性の反応拡散波を用いて2次元空間および3次元空間における最短経路探索問題を解くアルゴリズムを堤案し,様々な2次元・3次元マップにおける最短経路探索に適用し,総合的な評価を行った。 今後,無配線分子コンピューティングの系統的な設計手法を確立していくことが重要な研究課題である.
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