研究概要 |
本研究は,平成13年度から2年間にわたって行われた.この間,当初計画に基づいて研究を行い,所期の目的をほぼ達成することができた.以下に得られた研究成果の概要について述べる. 1.鑑定対象となる多様な様式・品質の文書から個別筆跡を正確に抽出するために,文書画像の写像ヒストグラム・筆跡の平均文字幅などの情報を統合した筆跡抽出法を開発した. 2.抽出された個別筆跡を,既知文書中の同一字種と詳細に比較するために,市販のOCRソフトウェアを援用する方式を構築した. 3.以上の成果を統合して,専門家が鑑定を行う際に準備する筆跡比較チャート(比較する両文書中の筆跡を同一字種ごとに整理した表)を対話的に作成するシステムを構築した.そして種々の文書を用いて評価実験を行ったところ,文書の量や品質にもよるが,従来の人手による方法に比べて,作成時間が約1/5〜1/10に短縮され,大幅な効率化が可能であることが確認できた. 4.従来筆跡鑑定の実務分野で有用とされている筆跡特徴をコンピュータで自動・半自動処理により,計測する方式を開発した.そして自動計測可能な字画構造マッチングの考え方を,署名の筆跡データに適用して,筆者照合の立場から筆跡個性の検証を行った.その結果,筆跡個性の存在の検証はもとより,署名照合への有用性も確認できた. 以上,本研究成果は,従来の文書鑑定の効率化と信頼度の向上に十分寄与できることが確認できた.今後,本システムの支援機能を更に高め,実務分野における鑑定に応用するためには,筆跡抽出法の高機能化,並びに詳細な筆跡変動の分析が必要である.
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