研究概要 |
本研究は、高齢、若年の建設作業員を被験者とし、仮設足場にかけられた作業床上を何も持たずに歩行する、または作業床を持って歩行する実験を行った。そして、作業の高さ、作業床の幅、作業床運搬の有無を変化させた実験条件における被験者の精神的負担の程度を測定することにより、高齢者の高所での安全な作業基準を設定するデータを得ることを目的とした。実験では歩行中において、聴覚的に呈示された特定の数字に声で反応する、という二重作業を被験者に課し、副次課題のパフォーマンスから高所での被験者の余裕容量を測定した。 実験から得られた結果は以下の通りである。 高所での副次課題の反応時間は地上におけるそれより遅くなり,高さが精神的負担要因になることが明らかになった。そして年齢と高さの交互作用がおおむね認められず,高さによる余裕容量の低下には年齢は関係しないことが示された。しかし高さの要因に加えて作業床幅が狭くなった時,高齢者群では若年者群より,反応時間が遅れる傾向が見られた。また足場上歩行を作業要件の違いの観点から,直線歩行と回転動作の2つのフェーズに分けて,それぞれの動作中での副次課題反応時間を測定した結果,高さの要因に加えて,回転動作,すなわち作業要件が高くなると,高齢者群は若年者群より反応時間が有意に遅くなることがわかった。 以上,副次課題法を用いた実験結果から,作業位置が高い場合,地上作業に比べて高齢者は若年者よりも精神的負担の程度は大きくならなかった。しかし高さ要因に作業床幅が狭くなる,また作業が複雑になるなどの危険要因が付加された場合,高齢者は若年者より精神的負担が増大することがわかり,特に高齢者が高所で作業する場合において,作業環境の安全性をより一層確保する必要性が示された。
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