研究概要 |
研究の開始時点では,電極に修飾したデンドリマーによる硫黄の還元体の閉じ込めを試みたが,硫黄還元生成物の有機溶媒に対する溶解性がかなり高かったため実現が困難であった。そこで,含硫黄有機化合物として環状ジスルフィド構造を有するリポ酸の応用を検討することとした。リポ酸の有機電解液中における電気化学的挙動について報告が皆無であったので,有機電解液中における酸化還元挙動について最初に検討を行った。その結果,リポ酸そのものも,有機電解液中において,リポ酸中の環状ジスルフィド構造に基づく酸化還元挙動を示すことが明らかとなった。 次にこの酸化還元反応を電池反応に利用することとし,リポ酸部位の分散性などを高めるためにリポ酸部位を分子末端に有する樹枝状構造の化合物を数種類合成した。これらの化合物の有機電解液中における電気化学的応答などについて検討を行った。今回合成した化合物は,いずれも電気化学的に活性であった。また,化合物の酸化還元電位や電流ピークの値は,リポ酸のみの場合と異なり,枝分かれ構造に依存して変化する傾向が見られた。全体的には,過度の枝分かれ構造を有する化合物では,酸化電位と還元電位の値の差が大きくなる傾向がみられた。 これらの化合物をアセチレンブラック(導電剤)やポリフッ化ビニリデン(結着剤)と混合し作製したシートを適当な大きさに切断した電極を作製し,これを正極とし,負極にリチウム金属を用いた試験電池を作製し,その充放電試験を行い,電池性能を比較し電池用正極材料として優れた性能を有する化合物の検討を行った。その結果,正極活物質の単位重量あたりの容量で,最大約55Ah kg^<-1>であった。この電池容量についても,先の電気化学的挙動と同様に化合物の枝分かれ構造などに依存していた。
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