研究概要 |
本研究は,地下水ヒ素汚染問題にける自然由来ヒ素の供給・集積機構を解明するため,沖積層の形成過程からヒ素の挙動を検討したものである.調査地域は新潟平野をはじめ,比較検討のため中国内蒙古河套平野でも実施した.ヒ素濃度分析は原子吸光法,XRF法,ICP発光分析法を採用した。 初年度の調査で,新潟平野北西縁に位置する佐潟(砂丘湖)の底質(泥炭質堆積物)から50〜100ppmもの高濃度のヒ素が検出された.佐潟は周辺に工場や流入河川などない閉鎖系の潟湖である.祈年度以降は,潟湖堆積物の高濃度ヒ素の集積要因に着目し,佐潟の底質ヒ素濃度の経年変化や農薬の影響を検討した結果,腐食質〜泥炭質の表層堆積物は年間を通じてAs40〜70ppmで,6月(初夏)と9月(秋)前後に2回のピークがみられた.佐潟では戦前・戦後の一時期に農薬「ヒ酸鉛」を使用していたため,鉛濃度も併せて分析した結果,10〜26pmと非汚染土壌値に留まった. 佐潟周辺の佐潟東方(深度5m),早潟(深度50m),上堰潟(深度10m)の3地点で掘削したボーリング試料から堆積相解析を行い,地下に埋没した潟湖堆積物のヒ素濃度分布を検討した結果,高濃度ヒ素濃度が検出された層準はいずれも泥炭質や炭質物など有機物の多い層準であった.また,地表下10m〜50m深部に埋没した泥炭質〜泥質堆積物からも20〜190ppmのヒ素が検出された. 中国内蒙古河套平野においても,新潟平野と同嘩に泥質〜泥炭質で10〜24ppmを示した.また,平常時の黄河の川水では14〜17ppm,強雨増水時の北部山地支谷の濁水では17〜22ppmを示したが,これは後背地の土壌中に高濃度のヒ素を含まれていることを意味する. 以上のことから,平野の沖積層中のヒ素は洪水によって後背地から流出した土壌起源で,閉鎖系潟湖の底質におけるヒ素濃集は生物作用との関係が考えられる.
|