研究概要 |
環境に放出された重金属元素や放射性核種等の汚染元素の浄化過程において、土壌の果たす役割は極めて大きい。本研究においては、汚染元素の土壌への収着に関して土壌がどの程度"不均質"であるかを評価するために、^<137>Csも含めた、いわゆる天然放射性核種(^<40>K,^<226>Ra,^<210>Pb)を利用することを試みた。すなわち、半減期や由来あるいは化学的特性の異なるこれら核種の土壌中での分布状態を比較することにより、対象としている土壌がどの程度均質であるか、あるいは土壌中の環境がどのように変化してきたかを推察することを考えた。用いた土壌は、北海道大学構内において地震センサーの設置を目的として掘削した地下750mまでの堆積物コアの一部(北大理学研究科 笠原実教授ら)、およびドイツ連邦共和国における森林土壌(Max Plank研究所、R. Zimmermann博士ら)である。検討の結果、^<226>Raおよび^<40>Kの分布は全体として母岩およびその風化生成物の影響を受けること、その一方で、森林土壌中の^<40>Kの分布は、表層における樹木の根や(微)生物の活動状態を反映していることも示唆された。化石燃料の燃焼や原子力利用等、人為的に環境にもたらされた^<210>Pbおよび^<137>Csの分布から年間の土壌の蓄積量を推定することはこれまでにも多くなされている。本研究ではそれに加えて、降水やドライフォールアウトにより地表面に到達した両核種の深度分布を比較することが、その後の土壌環境の変化を知るために有効であることを明らかにした。また、汚染元素の例として、Mn(II)およびZn(II)の土壌への収着挙動をラジオトレーサー法により検討した。表層における両元素の収着量がきわめて高く、土壌有機物の量および質が収着に大きく関係していることが明らかになった。以上の結果を通して、土壌に含まれる放射性核種の分布を検討するという本研究の主旨が、対象としている土壌層の均質性を知るためのみならず、そこでの環境の変化をも推定するためにも有効であることが明らかにされた。また、"土壌環境の変化"として解明すべき問題のひとつに"生物活動の評価"があげられる。これが本研究の次の課題である。
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