研究概要 |
紫外線波長の違いによる皮膚癌誘発のリスクを評価するために、突然変異検出用トランスジェニックマウスの一種であるMutaマウスの背中に単色光紫外線を照射して、生体皮膚における突然変異誘発の線量依存性を解析し、皮膚に対する紫外線誘発突然変異の作用スペクトルを調べた。照射は岡崎国立共同研究機構基礎生物学研究所の共同利用施設である大型スペクトログラフを用いて行った。単色紫外線の波長として280,285,290,295,300,307,313,319,325,334,365nmの11波長を選び、紫外線によるマウス皮膚での突然変異誘発動態の照射線量依存性を、表皮と真皮に分けて、各波長ごとに調べた。295〜334nmの各単色光紫外線照射により皮膚表皮・真皮の両方で線量依存的に突然変異の誘発が認められた。誘発効率は表皮の方が真皮より高かった。280,285,290nmでは表皮のみで線量依存的に突然変異の誘発が認められた。以上の実験から紫外線による表皮の突然変異誘発の作用スペクトルが得られた。280〜295nmの範囲の紫外線では皮膚表皮における変異誘発効率はあまり変わらず、300nm以上では334nmまで波長とともに指数関数的に低下することが明らかとなった。最大を示した295nmと調べられた範囲で最低となった334nmでの突然変異誘発効率の違いは10,000倍であった。365nm紫外線では照射した線量範囲では目立った突然変異の誘発は認められず、この波長域まで作用スペクトルを決定することはできなかった。また334nm紫外線でも突然変異の誘発にかなりの高線量を要し、誘発変異頻度もあまり高くなかった。これらの結果はUVA領域の紫外線による皮膚癌誘発効果があまり高くないことを示すとともにUVB領域の紫外線が皮膚癌誘発の主因であることを裏付けている。
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